前回に引き続き「Fate/stay night [Heaven's Feel] 」について。
第1章[presage flower]は「日常の崩壊」をテーマに描かれていましたが、第2章[lost butterfly]のテーマは「選択」。
あらすじ
「俺の戦うべき相手は
――まだこの街にいる」
少年は選んだ、自分の信念を。そして、少女を守ることを。
魔術師<マスター>と英霊<サーヴァント> が
願望機「聖杯」をめぐり戦う――「聖杯戦争」。
10年ぶりに冬木市で始まった戦争は、「聖杯戦争」の御三家と言われた
間桐家の当主・間桐臓硯の参戦により、歪み、捻じれ、拗れる。
臓硯はサーヴァントとして真アサシンを召喚。
正体不明の影が町を蠢き、次々とマスターとサーヴァントが倒れていった。
マスターとして戦いに加わっていた衛宮士郎もまた傷つき、
サーヴァントのセイバーを失ってしまう。
だが、士郎は間桐 桜を守るため、戦いから降りようとしなかった。
そんな士郎の身を案じる桜だが、彼女もまた、魔術師の宿命に捕らわれていく……。
「約束する。俺は――」
裏切らないと決めた、彼女だけは。
少年と少女の切なる願いは、黒い影に塗りつぶされる。
「『心して』見に来てください。じゃないと、心も体もぜんぶ持っていかれます」
遠坂凛役の声優、植田佳奈さんの言葉を前記事の最後にご紹介しましたが…ここまでガッツリ心を持っていかれるアニメーション映画は久しぶりでした。
一見清純派に見える桜。第1章[presage flower]では、”雪が降りしきる中、冬なのに純白ワンピース姿”で士郎の帰りを待つシーンがありましたが、いかにも清楚系ヒロインといった感じ。
劇場版「Fate/stay night [Heaven's Feel]第一章/本予告 posted by アニプレックス
そんな彼女の黒い部分、心に秘めた闇がジワジワと湧き上がってくる第2章[lost butterfly]。
今作はレーティングが変更になりPG12となっています。
間桐桜の魅力を最大限に描くため、またPC版の表現をレーティング変更なしでは表現しきれないといった理由かと思いますが、英断です。
士郎と桜、ふたりの物語
第1章から一貫してふたりに焦点を絞って進んでいく物語。それは第2章[lost butterfly]においても変わらず、そして第1章以上にふたりの内面を描き出していく。
桜が女性として抱える士郎への想いや、時折見せる嫉妬や醜さ、人間としての狂気、恐怖、絶望。彼女が徐々に壊れていく様子が見事に描かれていると思います。
一方、士郎も第2章のテーマになっている「選択」を迫られる。
「Fate」、「Unlimited Blade Works」共に”正義の味方”なることを目指していた彼。特に「Unlimited Blade Works」では”理想の自分との対峙”を果たし、決意を固めた彼が「Heaven's Feel」で下す決断は…!
「俺は桜だけの正義の味方になる」
劇場版「Fate/stay night [Heaven's Feel]」 Ⅱ.lost butterfly 本予告 posted by アニプレックス
予告編でも音声が出ているのでこのセリフはネタバレではない!
これが彼が迫られた選択の答えかは…
力と力のぶつかり合い
第1章同様、サーヴァント同士の戦闘はあくまでおまけ。
本題は「桜の抱えた闇」と「士郎の選択」といったところでしょう。
ですが…戦闘シーンはやっぱり迫力がありますね。何と言っても物語中盤、セイバーオルタvsバーサーカーは怪獣映画か!ってくらいの大迫力。
劇場版「Fate/stay night [Heaven's Feel]」 Ⅱ.lost butterfly 本予告 posted by アニプレックス
個人的には細かい、テクニカルなアクションが多い戦闘シーンが好みなんですが、ここまで純粋な力と力のぶつかり合いを見せられると圧倒されてしまいます。
[Heaven's Feel] の戦闘的な見せ場は第3章に固まっているのですが…これはかなり期待してしまいます。
ほかの主要キャラの見どころは?
士郎と桜に焦点を当てているため、かなりザックリと出番を削られている他の登場人物たちですが…。
もちろん活躍シーンもしっかりと描かれています。
「アンタは完全に、私を敵に回したのよ」
劇場版「Fate/stay night [Heaven's Feel]」 Ⅱ.lost butterfly 本予告 posted by アニプレックス
活躍したかは別として…他作品を含めても、ここまでキレ顔の遠坂さんはなかなか見ることが出来ません。誰に向けての言葉かはご想像にお任せしますが、この時の桜の表情も印象的でした。
慢心王こと英雄王ギルガメッシュさんですが…。
ファンには申し訳ないですが、今作は完全な噛ませ犬ですね。と言っても、劇中のシーンでも原作よりはマシになってると思うんですよね。セリフ増えてるし。
ただ、あのシーンも結構重要で…それだけあの影がヤバいと…。
安定のAimer&梶浦タッグ
第2章、黒桜覚醒からの暗転…そして…
「憐れみをください」
リリースは劇場公開前でしたし、予告編動画でも聞いていたこの楽曲ですが、本編を見終わってからのこのワンフレーズは強烈でした。ゾクッとしますね。
第1章[presage flower]の主題歌「花の唄」同様に”桜”の歌だというところに変化はありません。ですが、第2章[lost butterfly]の主題歌「I beg you」は”桜”の裏の面、黒い部分を含めた歌詞になっています。
第3章[spring song]もAimerさんが主題歌を担当されますが、本編を見終えた後に聞く「春はゆく」にどんな感想を覚えるのか今から楽しみです。
以下ネタバレあり
以下ネタバレありの感想的なもの
選択
「桜、帰ろう」
いなくなった桜を見つけだした士郎。
近づく彼に、ひた隠しにしてきた事実を突きつけていく桜。「嫌われよう、遠ざけよう」そんな想いがヒシヒシと伝わってくるこのシーン。
それでも士郎は歩みを止めない。
ここからの桜の言葉は、紛れもない彼女の本心でしょう。
そしてあの事実を…告げる。
それは桜にとって、とても”重い事実”で、想いを寄せる相手には絶対に知られたくない事だったはず。それでも打ち明けた事実…
「俺が守る…
――俺は桜だけの正義の味方になる」
「Fate」、「Unlimited Blade Works」では、正義の味方になることを貫いた士郎。「Heaven's Feel」でも、この場面まではそう在るために行動してきた。だが、この場面が大きな転換点となる。
「桜だけの――」とは言っても、これは彼女が”悪”ではない”善良”なままの彼女であることが前提での「選択」だったのかな?と思います。
それにしても、この場面の映像化がやっと見れたことに感謝です。
帰り道、遠坂凛とアーチャーの横を通り過ぎるふたり。
「衛宮士郎。お前がそれまでの信念を守るのならそれでいい。
――だが、もし違う道を選ぶのなら…」
背中越しで掛けられたアーチャーの言葉に士郎は何を思ったのか…。
桜だけの正義の味方
物語終盤、本作の見所のひとつであり、衛宮士郎の在り方が完全に変わる”選択”を迫られる場面が訪れる…そう、眠っている桜を殺そうとするシーン。
間桐臓硯に桜の真実を知らされ、街の人々の犠牲を増やさないために桜を殺すことを勧められる士郎。
「お主が衛宮切嗣を継ぐのなら――
間桐桜こそ、お主の敵だ…」
その言葉通り、包丁を握りしめ桜の寝室へと向かう士郎。
「衛宮切嗣」に憧れ、そう在りたいと思った彼ならば、その行動は自然であり、必然だったのかもしれません。
走馬灯のように流れる様々な想い…重すぎる選択を迫られ”初めて”涙を流す士郎。葛藤の末、彼が下した決断は…。
「裏切るのか…?」
「ああ、裏切るさ…」
サラッと吐き出したこの言葉は重い。今の自分を、今までの自分を構成していた全てを切り捨て、「桜のためだけに」という想いが込められている。
「Fate」、「Unlimited Blade Works」とは違う、アンチテーゼとなる主人公が生まれた瞬間でもあり、衛宮士郎が人間になった瞬間でもある。
満たされる心と裏腹に…
「その思い出まで…取らないで…」
劇場版「Fate/stay night [Heaven's Feel]」 Ⅱ.lost butterfly 本予告 posted by アニプレックス
同じ光景を目にしていた凛に対しての悲痛なまでの叫びと、激しい嫉妬…
そして…
雨のシーン後、魔力供給が吸血行為だったので [Realta Nua]版で進行するかと思いきや…ここでまさにヤッてくれました。
Fateにエロ要素が必要だと考えていませんが、[Heaven's Feel] だけは特別でしょうか…幼い頃、間桐家に養子として出された彼女を待っていたのは、蟲による凄惨な陵辱や義兄による虐待…生い立ちを考えれば愛情を受け取ることはなかったでしょう。
そんな彼女が、自分のすべてを受け入れてくれる最愛の人と結ばれる…どれほど満たされたかを思うだけでも胸が痛みます。たとえそれが、ほんのひと時でも…。
このまま幸せに…そう願ったのは私だけではないでしょう。
だが、彼女は既に蝕まれている…物語が進むにつれ、彼女の黒さがじわじわと湧き上がってくる。
そして極めつけがあのメルヘン…
一瞬、本気で「何が始まった?」と思いましたが…人を喰い散らかすシーンをこの演出か…!と感心してしまった。
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「あーむっ」からの「精が出るな」の落差が本当に半端ない。
原作ではテキストのみで語られたこの場面を、こんな世界観で表現するとは…リアルにその光景を見せられるよりも、桜の内面を映し出しながらのこの演出は逆に怖さを感じますね。
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主題歌「I beg you」のジャケットがメルヘンだったのにはやられました…
アニメオリジナルシーンも見事
上記のメルヘン桜もオリジナルの演出で描かれていましたが…
大河が桜を見舞うシーン。切嗣の話をしているところはグッときますね。
扉越しにその話を聞いているイリヤ。
切嗣は第4次聖杯戦争後にイリヤに会うために何度も何度も出国していた。聖杯の呪いで衰弱した彼に森の結界は破れず、また聖杯戦争に敗北した切嗣にアインツベルンは門を開かなかった。
事実を知った彼女は少しは救われたのかな?と思うと感慨深いものがあります。
また、”影”とアーチャーの戦闘終盤の「ロー・アイアス」展開。こちらもオリジナルの演出ですが、憎いですねェ…いい伏線です!
結果的にここで退場となってしまうアーチャーですが、その左腕にはまだまだ出番が!
そして「達者でな、遠坂…」には思わずウルっと…あの声で、優しい顔であんなこと言われたら泣いちゃう。
まとめ
第1章も素晴らしい出来でしたが…それを超えてきた第2章[lost butterfly]。
黒く、狂気に染まっていく桜を…自身の理想、それと相反する思いに葛藤する士郎を完璧なまでに描き出した、傑作と言っていい出来かと思います。
第3章[spring song]の公開まであと1か月。
9割方トゥルーエンドで描かれるであろう結末を楽しみにしています。個人的にはノーマルエンドも好きなんですけどね…。
今からでも遅くはありませんので、是非視聴していただきたいと思います。
劇場版「Fate/stay night [Heaven’s Feel]」Ⅲ.spring song 予告編
そう言えば明日、2/29日から第三弾の前売券、並びにムビチケカードが発売されます。
ムビチケカードのイラストは第一弾の前売券と同じキービジュアルになっていますね。
ちょっとだけ安く映画が見れるので興味がある方はチェックしてみてください。
今回も最後まで読んでいただきましてありがとうございました。