「君の名は。」を見られない”くだらない理由”と”こじらせた理由”

前回は”「君の名は。」が見られない”という記事を書きましたが、具体的に何故見られないのか…。いや、何時でも見ることはできるのです。だって手元にBlu-rayがありますから。

 

そもそも私は「君の名は。」を普通に映画館で見るつもりでいました。ただ、私は人混みが嫌いなので、公開から少し時間が経ち落ち着いてから見に行こうと考えていたのです。

 

が…「君の名は。」は驚くほどの大ヒット。

 

「これは仕方がない、混んでいても見に行こう」と決意した私ですが…。

 

友人や職場の仲間、そして兄までもがネタバレしまくってくるわけです。普段アニメに興味を示さない層が「お前アニメ好きだし、もう見てるだろ?」的なノリでネタバレしてくるのです。そして私は「君の名は。」を見ずしてほぼストーリーを把握し、結末まで知ってしまう訳です。

 

そして私は決意します。

 

「どうせBlu-ray買うし、ストーリーを忘れた頃に見よう…」と。

 

残念ながらストーリーを忘れることはできていませんが、次回作の情報も出ていますしそろそろ視聴しようかと思っています。

皆さんもネタバレにはご注意を…!

 

さて、実はもうひとつ見るのを躊躇した理由があるのです。

 

それは同じ新海誠監督の作品「秒速5センチメートル」の存在。

新海作品の中で私が一番好きな作品であると同時に、世間では「鬱アニメ」と言われる本作。

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私はこの物語の主人公”遠野貴樹”に感情移入ができ、そして自分を重ねることが出来るのです。これは特別なことではなく、「初恋」を経験している人であれば誰でも可能なことです。ただし、女性の方にはあまり受け入れられない傾向が強いようですね。男性と女性で感性、恋愛観には隔たりがあると思うので致し方ない事かと思います。

ただ、感情移入が出来ない場合、この作品を好きになることはないと思います。タイトルが割と頭に残りやすいので「桜のイメージ」や新海作品の特徴「風景や背景がキレイだったな」程度の印象しか残らないのではないか?と考えています。

 

さて、ここで簡単なあらすじを 

秒速5センチメートルは「桜花抄」「コスモナウト」「秒速5センチメートル」の三章からなる連作短編集で、それぞれ遠野貴樹の小学生、中学生、高校生、そして社会人時代が描かれています。

 

互いに惹かれあっていた主人公”貴樹”とヒロイン”明里”は、小学校卒業と同時に明里の引っ越しで離ればなれになってしまう。中学生になり、明里からの手紙が届いたことをきっかけに二人は文通を始める。

中学1年の終わりが近づいた頃、今度は貴樹が鹿児島へ転校することになる。「もう二度と会えなくなるかもしれない…」そう思った、貴樹は明里に会いにいくことを決意する…。

中学2年の春に貴樹は東京から引っ越し、今は遠く離れた種子島で高校生活を送っていた。クラスメイトの花苗は東京から引っ越してきた貴樹に恋をしていたが気持ちを伝えられずにいた…。

東京で社会人になり、SEとして働く貴樹。3年間付き合った女性とも心を通わせることができず別れ、やがて会社も辞めてしまう。

貴樹の心は今もあの中学生の雪の夜以来ずっと、自身にとって唯一の女性を追い掛け続けていたのだった…。

 

作品のキャッチコピーは

 

”どれほどの速さで生きれば、きみにまた会えるのか”

 

新海監督は映像特典のインタビューでこう語っています。

「ぼくの前作である『雲の向こう、約束の場所』や『ほしのこえ』という作品でもテーマは二人の心の距離だったり、スピードであったりしたのでずっと同じテーマを通底して描いているのですが、ただ今回の作品に関して言えば逆にそれしか描いていない、二人を隔てる物は何もない訳で、でもどうして関係は変化していってしまうのかを描きたかったんです。第1話で描いてるのは貴樹が電車を乗り継いで明里に会いにいくその電車のスピード、貴樹が明里に近づいていく物理的、心理的スピードを描いていて、第2話では花苗が貴樹との心の距離を自覚してしまうだけの話だし、第3話は逆に貴樹が明里との心の距離を自覚する、それだけの話と言ってしまえると思うんです。アニメーションなんだけれど他に何の要素も入れず、シンプルなんだけど逆に力強い作品にしたいという気持ちを込めて速度だけを表す『秒速5センチメートル』というタイトルをつけました。」

 

私も当たり前のように初恋をして、失恋をしています。貴樹と違う点を挙げれば”私は中学3年間で3回告白しその3回とも振られている”というところでしょうか?

そして振られたからと言ってその関係が変わることもなく、常に一緒にいましたし、毎晩のようにどちらからともなく電話をしては会話していたのを覚えています。

 

そんな関係も次第に変化が訪れます。

高校進学。

私は学年で言えば割と上位にいましたが、初恋相手は圧倒的トップ層…。結果、私はそれなりの高校に、初恋相手は周辺地域では有名な進学校へそれぞれ進学します。

 

ここで私が感じるのは「距離」。住んでいる場所は変わっていないにもかかわらず、別々の高校に進学しただけで「心の距離」を感じるのです。

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そう、まさに「秒速」の「新海誠」の描くテーマそのもの。

 

私は高校進学と同時に携帯電話を手に入れましたが、初恋相手はそうもいかなかったようで、毎晩のように来ていた電話は週数回、月に数回、高校2年になるころには電話が鳴ることもなくなりました。

 

「秒速」の二人は文通をしていましたが、次第に返事がなくなりやめてしまいます。

確定的なことは映画でも漫画版、小説版でも言及されていませんが私は思うのです。

 

「何を書けばよいのかわからない」「どんな話題を書けばよいのかわからない」

それほど物理的に離れていない私ですら「話が合わない」と感じることが幾度かあったのです。であれば栃木と鹿児島という距離であれば致し方ないと思うのです。

さらに言えば自分の身近に起こった出来事も共有できない。また、手紙では書くことが困難な出来事もあるでしょう。

 

そして一度離れた「心の距離」は近づく時とは真逆と言っていい、驚くほどの「速度」で離れていきます。それを実際に経験したせいで私は「秒速5センチメートル」という作品に自分を重ねることが出来るのかもしれません。

 

そしてもうひとつ。

 

「桜花抄」以降の貴樹の在り方です。

自分に好意を抱いてくれている人間と向き合おうともせず、ましてや付き合っている彼女とすら心を通じ合わせることが出来ない…。

数ある考察や感想を綴ったブログでも”こじらせている”ナルシスト”など散々な言われ様ですがその通りだと思います。

それもこれも”明里”という特別な存在がいるからです。ずっと「初恋」に囚われたままだからです。

 

私は高校時代4人の女子とお付き合いをしました。(人生唯一のモテキ!)

ただ、私もまた「初恋」に囚われたままだったと思います。

貴樹ほど相手をおざなりに扱ったとは思いませんが、結局私が本当に好きだったのは、ずっと「初恋」の相手だったと思います。

 

あまり詳しく書きすぎると私の気持ち悪さが強調されていまうのでこの辺にしておきますが、こんな理由から私は”貴樹”に感情移入できるのです。

 

世間では「鬱アニメ」として評価される本作ですが、私は新海監督がおっしゃったこの言葉がしっくりくるのです。

 

「自分としては、励ますような気持ちで作ったつもりなんです」

 

実際、私はラストシーンである踏切の場面を見てこう解釈します。

あえて「桜花抄」冒頭と同じ場所を選び、同じ演出をしたのだと思いますが、「ここからまた歩き出す」そんな彼と同じような気持ちを抱いて生きている人に向かってエールを送ったのだと思うのです。

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だからこそ私はこの作品が好きなのです。

昔の恋愛に想いを馳せ、甘く切ない気持ちを思い出しながらも最後には背中を押してくれる。

ハッピーエンドではない…。ただ、無理やり描かれるハッピーエンドを見せられるくらいなら、私はこんなリアルのほうが好きなのです。

 

 最後にもうひとつ新海監督のインタビューから

「タカキとアカリは結ばれないんですね。でも、結ばれないんだけど、だから不幸ということではなく、「“ロマンチックラブ”らしきものをつかみかけた彼らだけど、それを手に入れることはできなかったけれども、でもその先に出て歩いて行こう」という作品をずっと作りたいと思っていて」

 

さてこの記事ですが、実は秒速5センチメートルの紹介記事ではありません。

私が「君の名は。」を何故見れないのかという記事だったのです。

 

私はこの記事を書くにあたっていくつか考察や感想ブログを拝見させていただきました。今更ながら色々と気づかされるシーンもいくつかありましたし、私とは考え方が違うなというモノもいくつかありました。

そんな中に「秒速5センチメートル」と「君の名は。」を対極の作品として取り上げる記事がいくつかあり不安になりました。

確かに離ればなれになった二人が再び会えるか会えないか…対極なんですけど。今回の記事で引用した新海監督のインタビューを見れば”通底したテーマと速度”以外を省いた作品とそれ以外を盛りだくさんに詰め込んだアニメとでは対極になりえないんですよね。土壌が違う。

そんな記事を見て「君の名を。」を「なんか違うな」と感じてしまうのではないか?という個人的な葛藤が視聴を躊躇させてしまったのです。

 

そんなことを考えるのも私の「秒速愛」が激しすぎるせいでしょう。

 

映像作品以外にも小説版が2冊、漫画版が出版されています。

映画では明かされなかった互いに渡せなかった「手紙」の内容も明かされていますし、漫画版では貴樹が付き合った水野さんの話や花苗のその後も少しだけ描かれています。

これを補足とみるか、別のものだと考えるかは個人個人の考え次第ですが、もしこの作品を見た方であれば手に取ってほしいと思います。

映画版がスッキリしなかったという方の気持ちも少しは晴れるかと思います。

 

今回も最後まで読んでいただきましてありがとうございました。

 

 

秒速5センチメートル [Blu-ray]

小説 秒速5センチメートル (角川文庫)

秒速5センチメートル one more side